自由研究「エビ中とは?」①

一発撮りで音楽と向き合う人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』。

この第136回に出演した私立恵比寿中学

披露した『なないろ』は予想を遥かに超えたクオリティーだった。





『THE FIRST TAKE』といえば過去にYOASOBI、EXILE TAKAHIRO、LiSA、清水翔太など人気に加え圧倒的な歌唱力を持つアーティストが数々出演してきた番組。
いわゆるアイドルという存在は稀で、私立恵比寿中学というアイドルグループの出演は意外に見えた。

これは偏見かもしれないがアイドルといえば口パクというイメージ。
バンドにソロシンガー、ラッパーなど音楽に関するジャンルやスタイルは様々で、それぞれに良さがあるのはわかる。だがどうしても個人的にアイドルというジャンルにはアレルギーがある。

それでも私立恵比寿中学のパフォーマンスは想像を超えてきた。それほどだった。

しかしこの私立恵比寿中学というグループ。
名前を聞いたことはあるが、馴染みのない者からすればその実態は謎。
加えてこの『THE FIRST TAKE』関連の物を辿ってもどうも理解できないワードや状況が連発する。



「9人組」「6人体制」
「第二章の終わり」「第三章の始まり」
「King of 学芸会」「ファミリー」
「不自然に空きのある出席番号」
「大切な日」「大切な曲」





一体このグループは何なのだろうか?何が起こり、どうやって現在に至っているのか?
圧巻のパフォーマンスの根源とそれに連なる謎の数々。
シンプルに言えばこの「私立恵比寿中学とは何か?」を解き明かさなければならない気がした。

アイドルにあまり馴染みがない、私立恵比寿中学をよく知らない人間が『THE FIRST TAKE』を機に

エビ中とは?」

を探った記録をここに残したいと思う。











※無知な素人が薄っぺらい知識と勝手な憶測で書いたお勉強記録です。長いので全5回に分けてあります。
文中敬称略です、ご了承下さい。
事実と異なる場合もあるかもしれませんし、個人的な偏った意見もございますのでそちらもご了承下さい。
訂正やお叱り、その他ご意見ご感想等ありましたらお気軽にコメントいただけますと幸いです。
























【音楽と真摯に向き合うグループ・私立恵比寿中学



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(上段左から真山りか安本彩花星名美怜、下段左から柏木ひなた小林歌穂中山莉子)









私立恵比寿中学。略して″エビ中″。

「永遠に中学生」をコンセプトに掲げ、「king of 学芸会」を自称する女性アイドルグループ。

公式動画『5分でわかる私立恵比寿中学』で紹介されているようにライブパフォーマンスに定評があり、人気アーティストによる楽曲提供を含む作家陣の豪華さはそのまま楽曲の質の高さと幅の広さに繋がっている。



やはりこのグループには『アイドル』というジャンルの枠には収まらない歌唱力が備わっているようだ。グループ名とのギャップには驚かされる。


レキシ池田貴史提供の『なないろ』、石崎ひゅーい提供の『ジャンプ』という代表曲のみならず、思わず聴き入ってしまう曲が揃っている。

メジャーデビューシングル『仮契約のシンデレラ』、iri提供の『I'll be here』にマカロニえんぴつはっとり提供の『愛のレンタル』、さらにエビ中のフェス定番のアゲ曲『HOT UP!!!』、王道バラード『まっすぐ』など挙げればキリがない。


こちらも公式動画にあるように安本彩花柏木ひなたの歌唱力の高さが楽曲の良さを引き出すことを可能にしている大きな要因ではあるが、エビ中の凄いところは他のメンバーもハイレベルかつ個性派揃いということ。
これはもう実際に聴くのが何よりなので聴いたことのない方は聴いてもらいたいし、ファンの方にとっては最早当たり前のことなのだろう。


安本彩花の「パーフェクトピッチ」と呼ばれる正確さ、「エビ中の歌姫」柏木ひなたの絶対的な歌声の強さをまずベースとする。補足すると二人とも表現力や技術も高く、まさにエモーショナルと言って過言ではない。
そこに普通のグループなら余裕でエース級の歌唱力に、圧倒的表現力を兼ね備えた真山りかという第三の矢がエビ中にはある。
さらに超高音オバケ星名美怜、唯一無二の優しい歌声を持つ小林歌穂、魂に訴えかけるような歌い方で魅せる中山莉子が加わる。
一見これだけの個性が揃うと潰し合うかに見えるが、それが絶妙に共存しているのが私立恵比寿中学というグループだ。

楽曲の質の高さと幅はむしろそれぞれの個性を際立たせており、それが大きな武器となっている。








正直アイドルというものはあまり好きではない。それでもエビ中の楽曲、歌声はその壁を越えてきた。次々に聴いてしまい、徐々にそれまで好きだったアーティストに並び追い抜く勢いになってくる。
しかも楽曲が多彩なので飽きない。
代表曲はあれど、ファンの間でも好きな曲がかなり分かれるほどにとにかく幅が広い。

エビ中の楽曲を聴き漁る中で、個人的にエビ中の良さが出ていると感じた曲を何曲か紹介したい。



まずこれは無難だが、「エビ中の歌唱力の限界を」と制作された『星の数え方』(5thアルバム『MUSiC』収録曲)。

パフォーマンスに重きを置いた6人体制を象徴するこの曲は、とにかく歌唱力が要求されるのに加えハモりが重要になってくる。6人の歌唱力、技術力、表現力、さらにはチームワークがあってこそ実現できた作品となっている。

難易度ゆえに安本、柏木の安定感が存分に発揮される曲ではあるが、この曲は高音域の星名と、姉さん方についていきながらもしっかりとアクセントとなる中山が印象的な曲でもある。





その『星の数え方』よりもエビ中の個性が発揮されるのが『紅の詩』(4thアルバム『エビクラシー』収録曲)だと思う。

柏木のフィーチャー曲としてお馴染みだが、実はそれ以外のメンバーも個性が出せる曲のように見える。
各メンバーそれぞれにフィーチャー曲は存在するのだが、個性が強いだけに当然得意分野は分かれ、曲によっては良さを出し切れないこともある。
例えば同じアルバムに収録されている『感情電車』は小林歌穂が声の良さと「人」の良さを存分に発揮できるフィーチャー曲。一方で真山、柏木のような声の出力が高いメンバーはそれをフルには発揮しにくい。当然この場合は小林が凄すぎるので、真山と柏木はその良さを出すことも含め、曲に合わせるという技術の高さを見せてはいるのだが。

このように割と顕著なのが真山、柏木の出力が高く低音に強いメンバーと星名、小林のようなより個性派で高音にめっぽう強いメンバーのギャップ(安本・中山はその間を得意とし、順応性が高く比較的オールラウンドプレイヤー)。

それを絶妙なところでクリアしているのが『紅の詩』だと思う。

まずこの曲自体がオバケ曲だということ。
こんなド直球に歌唱力がないとできない曲普通アイドルにやらせないし、一線級のシンガーでもそう簡単には歌いこなせない。

声を張るところが多くパワーが要求されるので真山柏木寄りで、星名小林は苦戦するかに見える。
ところがAメロやBメロの低音とは裏腹に、サビの音自体は高いので星名小林も難なく入り込める。なんなら本質的にはむしろそちら寄りの曲なのかもしれない。


メインの柏木が常に先頭を走りその力を存分に見せるのは今更言うまでもない。
小林中山は楽しそうに、星名は切なげにAメロで物語を展開。
実は重要なBメロで安本と真山が表現力を遺憾なく発揮。声のエモさもさることながら、曲の壮大な情景を浮かべさせるかのような歌い方はサビの説得力を引き出している。

サビは柏木が引っ張りながら中山も続く。中山の歌い方はとにかくバンドサウンドに合う。それなのに割とどの曲も結局歌いこなす不思議な力がある。

そして何より凄いのがラスサビの後半。

中山の「何故に返事をクレナイ」で1段階目のラストスパートに入り
柏木の「二人の影よ伸びてピンライト」で2段階目のラストスパートに突入。

圧巻は
安本の「充電不足の夜」
真山の「紅の詩をFor you」
星名の「乙女の微々たる余裕」
小林の「睡眠不足の女優」
4連発。


何度も言うがこれは「エビ中の歌姫」と呼ばれる柏木がメインの曲だ。
なのにその柏木抜きでこの曲最大のハイライトを構成してしまっている。これがエビ中の恐ろしさであり、この『紅の詩』の恐ろしさでもある。
安本の「夜」にはその声のエモさが詰め込まれ、真山が圧倒的表現力でこの曲の核心を突き、星名の「余裕」はまさに余裕の高音、小林がまるで『感情電車』の「その空」のような伸びやかさで仕上げる。
しかもこの伸ばす部分は毎回と言っていいほどマイナーチェンジが成され進化し続けている。

6人の良さが存分に発揮される『紅の詩』を是非とも聴いてみて欲しい。










そんな『紅の詩』と並びエビ中の歌唱力を爆発させてるのが『自由へ道連れ』だと思う。

椎名林檎のカバー曲だがアレンジも違い、もはや元々エビ中の曲なのではないかと勘違いしそうになる。椎名林檎のファンを驚かせたのも頷ける。
特に柏木、安本、小林のサビでの「近づいてる」「かじかんでる」「相反する」の部分は、相当難所だが楽々と歌い上げているように見せる。そう簡単にできる芸当ではない。
真山の表現力、安本の安定感、星名の音域の広さ、柏木の技術力、小林の常人には出せない歌声に、中山の爆発力。
カバー曲でこれだけ個性を出しながら原曲のファンを納得させるというのも、よくよく考えれば凄い話だ。







エビ中は業界内でも評価の高い安本、柏木がいるが実際はセンターやエースを置かない「横一列」を強調している。
それでいながら各メンバーが主役となるフィーチャー曲では、それぞれにその個性を発揮している。『紅の詩』の項で「曲によっては個性をフルに発揮できない場合がある」と書いたが、それは必ずしも悪いわけではなく、個性の幅広さを意味している。そもそも全体的に歌唱力が高いので、フィーチャーされるメンバー以外も難なく歌い上げてくる。

『PANDORA』(6thアルバム『playlist』収録曲)は星名美怜のフィーチャー曲でエビ中史上最速最高音のナンバー。楽曲としては星名の高音が活かされる曲で、彼女の好きな漫画『呪術廻戦』で例えるならまさに星名の領域展開(いわゆる無敵や独壇場といったところ)だが、他のメンバーもこれに対応し歌い上げてくるから凄い。
誰かが前に出てもそれにしっかりとついて行き、後ろから支える。「横一列」は決して順位を決めない運動会のような馴れ合いではなく、メンバーそれぞれのスキルと努力、そして信頼関係による抜群のチームワークが成せるエビ中の強みというわけだ。










そんなエビ中の音楽。
そもそもが三代目 J Soul Brothers登坂広臣今市隆二Little Glee Monsterのようにボーカルオーディションで選ばれた精鋭というわけではなく、あくまでアイドル。
本人達のポテンシャル・努力もさることながら、それを支えて良さを引き出してきているのはスタッフ・関係者のこだわりのように思う。



チーフマネージャーである″校長″藤井ユーイチやA&R担当の石崎裕士、演出担当の近藤キネオ、ボイストレーナーの西山恵美子。加えてスターダストやソニーら各関係者が信念と愛情を持って紡いできたものがエビ中のパフォーマンスを通じて聴く者に伝わってくる。

藤井校長は歌に限らず一貫してこだわりと愛情を持ってエビ中を育ててきた。だからこそ石崎裕士や近藤キネオのような人達が集まり、彼らの形作るものにもそれが見え隠れする。
西山恵美子の教えは本人が言うように技術だけでなく伝えることやその責任、心持ちを育んでいる。首脳陣の信念が形作るものに、技術や心が乗っかればそれは響く。


これは余談かもしれないが、エビ中は担当マネージャーまで絶対音感を持っているとか。その隅内香小李やかつて担当だった古溝由紀らも含め、本当にエビ中の周りにはグループやメンバーへの愛情を持って行動できる優しい人が多い。結局そういうのはメンバーやスタッフを通じて、回り回って聴く側にも届いているんだと思う。エビ中の歌から受ける感動や凄みはそういうところが根源なのかもしれない。















「一発撮りで音楽と向き合う」がコンセプトの『THE FIRST TAKE』で伝わってきたのはまさにエビ中が「音楽と向き合う」というのをしっかりやってきたということ。

6人の歌を聴けば、それが伝わる。
それと同時にこのメンバーや関係者から滲み出る、様々な感情や人間味を感じる。
思わず歌だけでなくバックグラウンドにも関心を引かれてしまう。

そして歌を聴くだけでは謎はまだまだ多い。


これはもうエビ中の歴史を紐解かなければわからないことが多すぎる。
そう思い、その歴史の扉を開いたが最後。
想像を絶する深さに、ただただ驚くばかりだった。